事例紹介:対人恐怖による休学を乗り越え、小さな成功体験から社会との接点を取り戻す
※この事例は、プライバシーに配慮し、複数のケースを統合・一般化したモデルケースです。
相談のきっかけ(10代・男性・大学生)
大学進学という環境の変化を機に、周囲の視線が過剰に気になるようになり、日常生活に支障をきたすようになりました。講義の教室移動ですら強い恐怖を感じるようになり、やがて大学を休学。
外出が困難になり、一日の大半を自室で過ごす中で「自分はもう社会に戻れないのではないか」という深い絶望と孤独感の中にいました。ご両親の熱心な勧めもあり、当オフィスでのカウンセリングを開始することになりました。
カウンセリングの経過
当初、彼は自分の不安や恐怖を言語化することに大きな抵抗を感じていました。そのため、焦って変化を求めるのではなく、まずは「ここなら何を話しても否定されない」という心理的安全性の確保に重点を置きました。
状態が安定してきたところで、少しずつ現実の場面に慣れていく「暴露療法(エクスポージャー)」のエッセンスを取り入れた行動計画を立てました。
- スモールステップの設定: いきなり人混みに行くのではなく、「人目につかない時間帯に自宅周辺を短時間散歩する」といった、本人が「これならできるかも」と思える最小単位の目標からスタートしました。
- 行動の拡大: 「コンビニでの買い物」「父親と一緒にジムで筋トレをする」など、徐々に外出のハードルを上げ、そこで感じた不安度を記録(数値化)して振り返りました。
- 価値観の再構築: 「必ず大学に戻らなければならない」という固執した考えが本人を苦しめていたため、カウンセリングを通じて「自分にとって無理のない生き方とは何か」を共に模索しました。
結末と現在の状況
一歩踏み出すたびに恐怖はありましたが、それを上回る「自分にもできた」という成功体験が、彼の心に確かな自信を育てていきました。
その結果、彼は大学へ復帰する道ではなく、「まずは今の自分に合った環境で働きたい」という前向きな意思決定をされました。現在は、軽作業や仕分けといったアルバイトに従事し、適度な距離感での対人交流を積み重ねています。
「外に出ることすら怖かった自分」から、「自分の足で社会に関わっている自分」への変化は、彼にとって何物にも代えがたい大きな自信となっています。
カウンセラーの視点
社会不安が強くなると、どうしても「完璧に治してから外に出よう」と考えがちですが、実際には「怖いまま動いてみて、大丈夫だったという経験を積む」ことが回復の近道となります。
彼の場合、ご家族のサポートと、本人が「小さな成功」を過小評価せずに積み重ねた勇気が、今回の回復に繋がりました。大学復学だけがゴールではなく、本人が納得できる「次のステップ」を見つけられたことが、この支援の大きな成果だと感じています。


