※この事例は、プライバシーに配慮し、複数のケースを統合・一般化したモデルケースです。

相談のきっかけ(30代・女性・会社員)

新しい職場に馴染もうとするたびに、過度な緊張と不安から転職を繰り返してしまうという悩みを抱えておられました。上司や同僚の顔色を常に伺い、小さなミス一つで「自分はもうこの職場に居てはいけない」「嫌われてしまった」と思い詰めてしまう傾向がありました。

ついに心身のバランスを崩し、医療機関にて「適応障害」と診断。休職・退職を繰り返す自分に限界を感じ、「自分の思考の癖を変えたい」という強い意志を持ってカウンセリングを申し込まれました。

カウンセリングの経過

彼女の苦しさの背景には、「完璧でなければ価値がない」「一度の失敗が人生の終わり」といった非常に強力な「自動思考(ぱっと浮かぶ考え)」がありました。そこで、薬物療法と並行し、認知行動療法(CBT)を用いたアプローチを数ヶ月かけて実施しました。

  1. コラム表(記録)の導入: 職場で不安を感じた際、「何が起きたか」「何を感じたか」「その時どんな考えが浮かんだか」をシートに記録する練習をしました。これにより、感情に飲み込まれている自分を「客観視(外在化)」する習慣を身につけました。
  2. 認知再構成: 記録した極端な考え(例:全員に好かれなければならない)に対して、「反論(別の視点)」を考えるワークを重ねました。
    • 変更前:「ミスをしたから、私は無能だと思われたはずだ」
    • 変更後:「ミスは誰にでもある。誠実に対応すれば、信頼関係は維持できる」
  3. セルフコンパッション(自分への慈しみ): 他者の評価ではなく、「今のままの自分でも大丈夫」と自分自身を認めるワークを取り入れ、心の安全基地を自分の中に作っていく作業を行いました。

結末と現在の状況

継続的なセッションを通じて、彼女は自分の思考パターンに気づくたび、心の中で「また完璧主義が出ているな」と一歩引いて捉えられるようになりました。

カウンセリング終盤には、「シートに書くことで、いかに自分が実体のない不安に振り回されていたかが見えてきた」と語られ、表情にも柔らかさが見られるようになりました。現在は、新しい職場に定着して1年以上が経過。転職を繰り返すこともなく、万が一ミスをしても「まあ、いっか。次で挽回しよう」と肩の力を抜いて働き続けています。

他者の評価という不安定な軸から解放され、自分自身のペースで社会と関わる喜びを取り戻されました。

カウンセラーの視点

転職を繰り返してしまう方の多くは、本人の能力不足ではなく、自分を追い詰める「思考のフィルター」が原因であることが少なくありません。適応障害は環境要因も大きいですが、本人の受け止め方(認知)を柔軟にすることで、同じ環境でもストレスの感じ方は劇的に変わります。

彼女のように「記録」を通じて自分を客観視できるようになったことは、生涯にわたるメンタルヘルス管理の大きな武器となります。完璧を目指すのではなく「最善を目指す」ことの大切さを、彼女の回復プロセスが証明してくれました。

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