標準的な認知行動療法(CBT)に取り組む中で、「頭では分かっているのに、なぜか行動できない」「また同じ人間関係のパターンを繰り返してしまった」と悩んでいませんか?
それは、あなたの心の奥底にある「モード(状態)」が、感情と行動の司令部を支配しているサインかもしれません。
今回は、映画『インサイド・ヘッド』を例に挙げつつ、スキーマ療法やモードワークといった「根本的な変化」を促し、CBTの効果を最大化する心理療法のエッセンスを解説します。
もくじ
1.なぜCBTだけでは「行動の壁」を破れないのか?
標準的なCBTは、現在の「思考の歪み」や「行動の習慣」を修正することに非常に効果的です。しかし、クライエントから時折こんな声が聞かれます。
「理屈では分かっている。でも、職場でプレッシャーを感じると、不安とイライラが爆発して、いつも通り冷静に行動できない。」
これは、意識的な「理性」の力だけでは、長年の経験で根付いた「不適応的な心の状態(モード)」に打ち勝てないことを示しています。特に、発達早期の経験で形成された感情パターンは、強いストレス下で自動的に「暴走」を始めます。
2.心のモードとは? — あなたの「頭の中のキャラクター」たち
CBTの深いアプローチであるモードワークやスキーマ療法が注目するのは、特定の状況で自動的に起動する「心の状態」、すなわち「モード」です。
映画『インサイド・ヘッド』で、主人公ライリーの頭の中にいる感情のキャラクターたち は、まさにこの「モード」の素晴らしいメタファーです。
| 映画のキャラクター | モードワークの概念 | 状態と行動パターン |
| ヨロコビ、カナシミ、イカリなど | 感情モード | その感情が優勢な状態。健全な状態なら、状況に適した反応をもたらします。 |
| キャラクターの暴走/隠遁 | 不適応的な対処モード | 過去の辛い経験に基づき、感情を遮断したり、過剰に攻撃したりする不器用な対処法。このモードが活性化すると、CBTで学んだ冷静な対処法が使えなくなります。 |
| 「健康な大人」 | アダプティブ・モード | 感情を否定せず、協力させる司令官。状況に応じて感情の強度や行動を適切に選択できる、冷静で理性を保った状態。 |
3.カウンセリングとモードワーク:暴走する感情との協働
【カウンセリングがうまくいく鍵は「対話力」】
皆さんも経験から感じられている通り、長年のパターンを変えていける方は、頭の中の対立する思考や感情に対して、「言い負かす」のではなく、「受け入れて対話する」能力に長けています。
モードワークのカウンセリングでは、この『インサイド・ヘッド』の比喩を使いながら、以下のステップで根本的な変化を目指します。
- モードの特定: 「今、あなたの頭の中はどのキャラクターが司令部に座っている状態ですか?」と問いかけ、自分の状態に気づき、名前を付けます。
- 感情の根源を理解: そのモードが、「幼い頃に傷ついた自分(傷つきやすいチャイルドモード)」を守るために、不器用に頑張っていることを共感的に理解します。
- 「健康な大人」の育成と対話: カウンセリングを通じて、理性と感情を統合できる「健康な大人モード」を育てます。この「健康な大人」こそが、頭の中の司令部で主導権を握るリーダーです。
| うまくいかない対話(支配) | うまくいく「健康な大人」の対話(統合) |
| 「不安を感じるのは間違いだ!」と、ビビリ(不安)を抑えつける。 | 「不安な気持ちは理解できるよ。怖かったんだね。」と、ビビリを受け止め、安心させる。 |
| 「イカリを押し殺して、冷静に振る舞え!」と命令する。 | 「イカリよ、何を伝えたくて暴れているんだい?」と、メッセージを聞き出す。 |
このように、対立する感情や思考を受け入れ、共存を試みながら、最も建設的な行動を選択していく能力を育むことこそが、CBTの実行力を最大化させます。
4.まとめ:CBTの効果を最大化するために
モードワークをCBTに組み込む目的は、単なる思考の修正に留まらず、心の根源的なパターンを理解することです。
CBTが「具体的な行動計画」を提供するのに対し、モードワークは「行動を実行するための心の土台とエネルギー」を整えます。
「長年のパターンから抜け出せない」「自分の感情の扱い方が分からない」と感じている方は、ぜひ一度、この統合的なアプローチについてご相談ください。
当オフィスでは、標準的な認知行動療法にモードワークの知見を組み込み、感情の安定と持続的な行動変容をサポートする個別プログラムを提供しています。



