もくじ
1. はじめに:なぜ私たちは悩むのか?
私たちは日々、様々な出来事に直面します。仕事の失敗、人間関係のトラブル、予期せぬアクシデント…。これらの出来事自体が、私たちを苦しめているように感じがちです。
しかし、古代ギリシャのストア派哲学者エピクテトスは、約2000年前に、心の苦悩の真の源泉を見抜いていました。
「人間は物事によってではなく、物事についての自分の考えによって悩まされる」
— エピクテトス(ストア派哲学者)
このシンプルな言葉は、現代の認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)の「認知モデル」に通じるところが有ります。
今回はこの名言を深く掘り下げ、「出来事」と「悩み」の間にある心の働きを理解し、日常のセルフケアに応用する方法を解説します。
2. CBTの核心:「認知モデル」とは何か?
エピクテトスの言葉は、CBTの最も基本的な考え方である認知モデルを完璧に表現しています。
認知モデルとは、私たちの感情や行動は、「出来事」そのものではなく、「出来事をどう捉えるか(認知)」によって決まるというモデルです。
💡 認知モデルの基本構造
| 項目 | 意味 | エピクテトスの言葉との関連 |
| A (Activating Event) | 活性化する出来事(例:上司に注意された) | 「物事によってではなく」 |
| B (Belief/Cognition) | 信念・認知(出来事に対する思考や解釈) | 「物事についての自分の考えによって」 |
| C (Consequence) | 結果(感情、行動、身体反応) | 「悩まされる」 |
【例】
- A(出来事):プレゼンテーションで資料に誤りがあった。
- B(認知・解釈):「自分はなんて無能なんだ。もう二度と挽回できない」(自己批判的な思考)
- C(結果):感情(強い落ち込み、不安)、行動(次の仕事に着手できない、回避)
このモデルが教えてくれるのは、私たちが苦しんでいるのはAではなく、B(自分の解釈)であるということです。
3. セルフケアへの応用:悩みを軽くする3つのステップ
エピクテトスの知恵を、日々の悩みを軽くするためのセルフケアに応用しましょう。
ステップ1:C(結果)からB(認知)を特定する(感情のラベリング)
あなたが今、C(強い不安やイライラ)を感じていたら、立ち止まってください。
- 「今、私はどんな感情を感じているだろうか?」(例:イライラ、焦燥感)
- 「その感情の直前に、頭の中で何を考えていただろうか?」(自動思考の特定)
自己批判的なB(認知)は非常に速く、意識しづらいものですが、必ず存在します。例:「上司の態度が冷たいのは、私が嫌われている証拠だ」など。
ステップ2:B(認知)の検証と距離化(思考の客観視)
特定したB(自分の考え)を、一旦「事実」ではなく「単なる考え」として扱います。
- 「その考え(B)を裏付ける証拠は何か?」
- 「その考えを否定する反証は何か?」(例:過去に褒められたこと、他の同僚も同じ注意を受けていたこと)
- 「この考えを持つことで、自分はどんな結果(C)に陥っているか?」
CBTでは、このような検証を通じて、偏ったB(認知)をより現実的で機能的な新しい認知へと置き換えることを目指します。
ステップ3:A(出来事)とB(認知)を切り離し、行動に集中する
エピクテトスは、コントロールできるものとできないものを区別することが幸福への道だと説きました。
- コントロールできないもの(A):過去の出来事、他人の評価、未来の不確実性。
- コントロールできるもの(行動):今この瞬間の自分の行動とB(認知)への向き合い方。
私たちは、出来事(A)をコントロールできなくても、それに対する解釈(B)と、その後の行動を選ぶことができます。
例えば、「上司に注意された(A)」という出来事が変えられなくても、「私は無能だ(B)」という解釈を「次からは確認を徹底しよう(新しい認知)」に変え、具体的な行動に集中することで、悩みの連鎖を断ち切ることができます。
4. まとめ:哲学者から学ぶ心の自由
エピクテトスの言葉は、私たちが苦悩の根本原因を自分自身の心の中に見出すことを教えてくれます。
あなたが今日からできるセルフケアは、感情に巻き込まれる前に、「今、自分は何を考えているか?」と自問することです。
自分の「考え(B)」こそが悩みの正体だと気づくことができれば、あなたは既に心の自由への大きな一歩を踏み出しているのです。



