精神症状

【公認心理師/臨床心理士試験対策】うつ病まとめ

今回は、公認心理師/臨床心理士試験で重要なテーマである「うつ病」について、原因、診断、治療法まで、試験対策に必要な知識を総まとめします。

1. うつ病とは?

うつ病は、一時的な気分の落ち込みとは異なり、精神的・身体的な多様な症状が長期間続く疾患です。

抑うつ気分とうつ病のサイン

悲しい出来事だけでなく、喜ばしいライフイベントでも、環境の変化がストレスとなり抑うつ気分を引き起こすことがあります。しかし、うつ病では単なる気分の落ち込みに加えて、以下の症状が数週間にわたって続きます。

  • 興味や喜びの喪失: 楽しいと感じることがなくなる。
  • 食欲の変動: 食欲不振または過食。
  • 睡眠障害: 不眠(寝つきが悪い、中途覚醒)または過眠。
  • 疲労感・倦怠感: 休みの日でも疲れが取れない。
  • 思考力・集中力の低下: 頭にモヤがかかった感覚(ブレインフォグ)。
  • 精神運動性の変調: 落ち着きがない(焦燥)または動きが鈍くなる(制止)。
  • 無価値感・罪責感: 自己評価の低下。
  • 希死念慮: 「消えてなくなりたい」「死にたい」と考える。

2. 診断基準と重症度の判定

公認心理師/臨床心理士試験では、DSM-5-TRに代表される診断基準の理解が不可欠です。

DSM-5-TRにおけるうつ病の診断基準

以下の2つのうち、少なくとも1つを含む合計5つ以上の症状が、ほとんど1日中、ほとんど毎日、2週間以上にわたって存在し、著しい苦痛または機能障害を引き起こしている場合に診断されます。

  1. 抑うつ気分
  2. 興味または喜びの喪失
  3. 食欲の減退または増加、体重減少または増加
  4. 不眠、または過眠
  5. 精神運動性の焦燥または制止
  6. 疲労感、または気力の減退
  7. 無価値感または過剰・不適切な罪責感
  8. 思考力や集中力の減退、または決断困難
  9. 死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図

つまり、診断には症状の重さ・期間・社会生活への影響という3つの要素が重要です。

鑑別すべき身体疾患

うつ病の診断にあたっては、症状が身体疾患で説明できないことが重要です。試験でも出題される可能性があるため、うつ病に類似した症状を引き起こす身体疾患の例を覚えておきましょう。

  • 貯蔵鉄、ビタミンD、亜鉛、タンパク質の不足
  • 甲状腺機能低下
  • 更年期障害

3. うつ病と類似疾患の鑑別ポイント

試験では、類似した疾患との鑑別が問われることがあります。それぞれの特徴を正確に把握しておきましょう。

うつ病と適応障害

  • 適応障害: 明確なストレス因に反応して症状が出現し、ストレス因がなくなると6ヶ月以内に症状が改善する。抑うつ症状だけでなく、不安症状や自律神経症状も中心になりうる。
  • うつ病: ストレス因から離れても症状が持続する。

うつ病と双極性障害

  • 双極性障害: うつ状態と躁状態(または軽躁状態)を繰り返すのが特徴。躁状態では、万能感、活動性の増加、睡眠時間の短縮、衝動的な行動などがみられる。
  • うつ病: 躁状態のエピソードがない。

うつ病と気分変調症

  • 気分変調症: 抑うつ気分が2年以上にわたり、軽度ながらも持続する。うつ病のように症状の改善により気分が正常な状態に戻ることはほとんどない。

うつ病と非定型うつ病

  • 非定型うつ病: 楽しい出来事があると気分が明るくなる「気分の反応性」がある。それに加えて、鉛のように重い手足、過眠、食欲・体重の増加、他者への拒絶に対する過敏性などがみられる。

4. うつ病の発症メカニズム

うつ病のメカニズムは、遺伝的素因心理的ストレスの両方が関わっていると考えられています。

自律神経の乱れ

慢性的なストレスにより、脳の扁桃体が活性化し、HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)を介してコルチゾールが過剰に分泌されます。これにより、不眠や血圧上昇など自律神経の乱れが引き起こされます。

神経伝達物質の乱れ

コルチゾールの増加は脳の炎症を引き起こし、気分に関わる3つの主要な神経伝達物質(心の三原色)のバランスを崩します。

  • セロトニン: 不安感を抑制し、リラックスさせる。不足すると不安や焦燥感が生じる。
  • ノルアドレナリン: 気力や活力に関与する。不足すると倦怠感や無気力につながる。
  • ドーパミン: 意欲や喜び、充実感に関与する。不足すると虚無感や絶望感が強まる。

脳のネットワークの異常

うつ病になると、外部のタスクに集中するセントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)の活性が低下し、自己の内面に意識が向くデフォルトモードネットワーク(DMN)が過剰に活性化しやすくなります。このバランスの乱れが、否定的な反芻思考や集中力低下の一因となります。

5. うつ病の治療法

うつ病の治療は、重症度に応じて方針を決定することが重要です。 治療の4つの柱は以下の通りです。

  1. 環境調整: ストレス因を取り除く。
  2. 療養: 十分な睡眠、食事、適度な運動などで心身を回復させる。
  3. 心理療法: 認知行動療法、対人関係療法など。
  4. 薬物療法: 抗うつ薬など。

重度のうつ病では、療養や薬物療法を積極的に検討し、症状が改善してから心理療法や環境調整を進めることが推奨されます。

6. 心理療法と薬物療法

心理療法の種類

  • 行動活性化療法: 倦怠感があっても、あえて活動に取り組み、充実感や達成感を増やすことで症状の改善を目指す。
  • 認知行動療法 (CBT): 否定的な自動思考に気づき、客観的な視点から吟味することで、適応的な思考パターンを獲得していく。
  • 対人関係療法 (IPT): 気分や認知ではなく、対人関係の問題(役割期待の不一致など)に焦点を当て、コミュニケーションスキルを改善する。

抗うつ薬の種類と特徴

試験では、抗うつ薬の分類、作用機序、副作用について問われることがあります。

種類主な作用特徴/副作用
SSRI<br>(セロトニン再取り込み阻害薬)シナプスでのセロトニン濃度を高める吐き気、眠気などの副作用が多い。
S-RIM<br>(セロトニン調節薬)セロトニン再取り込み阻害に加え、受容体調節作用がある吐き気、眠気など。
SNRI<br>(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)セロトニンとノルアドレナリンの両方の濃度を高める動悸、眠気など。
NaSSA<br>(ノルアドレナリン・特異的セロトニン作動性)ノルアドレナリンとセロトニン分泌を促す強い眠気、食欲増加が特徴。
三環系・四環系セロトニン・ノルアドレナリンの両方の作用を促進古いタイプの薬。眠気、口渇、便秘などの抗コリン作用が強い。

抗うつ薬の効果発現期間: 服用開始から効果が現れるまでには時間がかかります。一般的に、2〜4週間で効果を実感し始め、8週間で約5割以上の人に症状改善が認められます。

増強療法: 抗うつ薬で十分な効果が得られない場合、ドーパミン系の働きを調整するために非定型抗精神病薬を併用することがあります。代表的な薬剤として、エビリファイ(アリピプラゾール)レキサルティ(ブレクスピプラゾール)があり、アカシジア(ソワソワしてじっとしていられない)などの副作用に注意が必要です。

7. まとめ

うつ病の試験対策では、診断基準を正確に理解した上で、類似疾患との鑑別、発症メカニズム、そして各治療法の特徴を押さえることが重要です。今回まとめたポイントを何度も見直し、知識を定着させてください。