公認心理師・臨床心理士試験の学習理論分野で頻出する、アルバート・バンデューラの社会的学習理論(Social Learning Theory)について解説します。この理論は、単なる行動主義的な学習を超え、認知的な側面を重視している点が特徴です。
もくじ
社会的学習理論とは?
社会的学習理論は、「人は他者の行動を観察し、その結果を認知的に処理することで学習する」という考え方です。別名「観察学習」とも呼ばれ、単なる試行錯誤による学習(直接経験)ではなく、モデル(手本となる人)の行動を見るだけで学習が成立することを説明します。
主要なキーワード
1. 観察学習 (Observational Learning)
他者の行動を観察し、それを模倣することで、新しい行動や知識を獲得するプロセスです。これをモデリング (Modeling)と呼びます。例えば、テレビで見たヒーローのポーズを真似したり、先輩の仕事のやり方を見て覚えたりすることが該当します。
2. 代理強化 (Vicarious Reinforcement)
モデルの行動が強化(報酬を得る、褒められるなど)されるのを見て、自分もその行動をすれば同じように強化されるだろうと学習することです。例えば、友達が先生に褒められたのを見て、自分も同じ行動をとろうとすることなどが挙げられます。この概念は、直接的な強化がなくても学習が起こることを説明します。
3. 自己効力感 (Self-Efficacy)
特定の行動を成功させることができるという自己信念のことです。バンデューラは、これが学習や行動の遂行に不可欠な要素であると考えました。自己効力感が高い人は、新しい行動に挑戦する意欲が高く、困難に直面しても挫折しにくい傾向があります。
観察学習の4つのプロセス
社会的学習理論は、観察学習が以下の4つの段階を経て成立すると説明します。
1. 注意 (Attention)
学習の第一歩は、モデルに注意を向けることです。モデルの行動を注意深く観察し、その特徴を捉えようとします。モデルが魅力的である、尊敬できる、あるいは成功している人であるほど、注意が向きやすくなります。
2. 保持 (Retention)
観察した情報を記憶に留める段階です。モデルの行動を頭の中でイメージ化したり、言語的に整理したりすることで、記憶に定着させます。この段階では、単なる視覚的な記憶だけでなく、その行動が持つ意味や文脈も同時に記憶されます。
3. 運動再生 (Motor Reproduction)
記憶に保持した情報をもとに、実際にその行動を自分で再現する段階です。最初はぎこちなくても、練習を繰り返すことで、モデルの行動を正確に再現できるようになります。この過程では、自身の能力や身体的な特徴も影響します。
4. 動機づけ (Motivation)
最後に、その行動を実際に継続して行うための意欲(動機づけ)が必要となります。動機づけには以下の3つの要因が影響します。
- 直接強化 (Direct Reinforcement): 自分で行動を再現した結果、褒められるなどの直接的な報酬を得ること。
- 代理強化 (Vicarious Reinforcement): モデルが報酬を得るのを見て、自分もその行動をしたいと思うこと。
- 自己強化 (Self-Reinforcement): 自分の行動が成功したことに対して、達成感や満足感を得ること。
強化と自己効力感の関連
バンデューラは、代理強化や自己強化の概念を提唱し、学習は必ずしも直接的な報酬に依存しないことを示しました。特に自己効力感は、観察学習のすべての段階に影響を及ぼします。
- 自己効力感が高い人は、新しい行動を学習する際に積極的に注意を向け、記憶を保持し、行動を再現しようとします。
- たとえ一度失敗しても、「次こそはできる」と信じられるため、動機づけが維持されやすくなります。
社会的学習理論の応用例
社会的学習理論は、教育、臨床、社会問題など様々な分野に応用されています。
- 臨床心理学: 恐怖症の治療におけるモデリング法(例:モデルが犬に触れるのを見て、犬への恐怖を減らす)、または社会技能訓練(SST)など。
- 教育: 教師が手本を示すことで、生徒が学習行動を模倣しやすくなります。
- 社会問題: 攻撃性や暴力行動が、メディアでのモデリングを通じて学習される可能性も指摘されています(ボボ人形実験)。
この理論は、人間が環境から受動的に影響を受けるだけでなく、自ら積極的に学習に関わる能動的な存在であることを示した点で、心理学に大きな影響を与えました。
まとめ
社会的学習理論は、観察学習の4つの段階(注意、保持、運動再生、動機づけ)と、代理強化、自己効力感といった重要な概念を理解することが合格への鍵となります。単語を丸暗記するだけでなく、それぞれの概念がどのように関連し、人間の学習に影響を与えているかを深く理解することが重要です。