今回は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)について、その主要症状から診断基準、そして臨床的な対応までをわかりやすく解説します。
1. PTSDとは?
PTSDは、生命の危険にさらされるような事故や災害、犯罪、性的暴行などの
外傷的出来事を直接体験したり、目撃したりすることで発症する精神疾患です 。このような体験は、心に強い恐怖記憶を条件付けし、持続的な不安や緊張、苛立ちなどを引き起こします 。
2. PTSDの4つの主要な症状カテゴリー
PTSDの症状は以下の4つのカテゴリーに分類しています。
- 侵入症状(Intrusion)
- 望まない記憶、悪夢、フラッシュバックなど、外傷的出来事が繰り返し、非自発的に思い出される症状です 。フラッシュバックは、まるでその場に戻ったかのように感じられる解離反応を伴うこともあります 。
- また、トラウマを思い起こさせる刺激によって、強い心理的・生理学的苦痛や顕著な身体反応(発汗、息苦しさなど)が生じることがあります 。
- 回避症状(Avoidance)
- トラウマに関連する思考や感情、記憶を避けようとします 。
- 外傷的出来事を想起させる場所、活動、会話、人物などに近づくことを避ける行動も含まれます 。
- 認知および気分の陰性変化(Negative Alterations in Cognition and Mood)
- 外傷的出来事の重要な側面を思い出せない解離性健忘がみられることがあります 。
- 自身、他者、世界に対する持続的な否定的な信念や期待、歪んだ自責・他責の感情を抱くことも特徴です 。
- その他、大切な活動への興味の喪失、他者からの疎外感、肯定的な感情を経験できない状態が持続します 。
- 覚醒度および反応性の変化(Alterations in Arousal and Reactivity)
- 睡眠障害、過剰な警戒心、易怒性や攻撃的な行動がみられます 。
- 無謀または自己破壊的な行動、集中困難、過剰な驚愕反応なども含まれます 。
3. 解離型のPTSDについて
上記の4つの症状カテゴリーに加え、離人感(自己や身体から遊離した感覚)や現実感消失(世界が非現実的に感じる感覚)が認められる場合、解離型PTSDと診断されます。
4. 診断基準の必須要件
PTSDの診断には、以下の3つの必須要件を満たす必要があります。
- 心的外傷的出来事への曝露: 実際にまたは危うく死ぬような出来事や性的暴行などを、直接体験、目撃、あるいは親しい人に起こったことを知るといった形で体験していること 。
- 症状の持続: 4つの症状カテゴリー(侵入症状、回避症状、認知および気分の陰性変化、覚醒度および反応性の変化)から、それぞれ必要な数の症状が1ヶ月以上持続していること 。
- 機能障害: 症状が、その人に大きな苦痛を引き起こすか、社会的・職業的機能に有意な障害をもたらしていること 。
5. 診断の見落としと臨床での対応
実際の臨床現場では、PTSDの診断が見過ごされることがあります。これは、患者様がトラウマ体験について話すのを避けたり、抑うつ症や不安症といった他の精神疾患を合併していることが多いためです 。
このような状況では、患者様との信頼関係を丁寧に築くことが不可欠です 。無理にトラウマ体験を聞き出そうとせず、患者様のペースに合わせて話を聞くことが重要です 。また、「本当につらい体験をされましたね」「よく頑張ってここまで来られました」といった共感的な姿勢で接することで、患者様の安心につながります 。
加えて、PTSDに関する疾病教育も重要です 。PTSDが、誰にでも起こりうる病態であることを説明し、トラウマ体験の原因が自分にあると責める患者様に対しては、「あなたが悪いのではない」と伝えることで罪責感を軽減させることが有用です 。
まとめ
PTSDは、多様な症状と合併症を持つ複雑な疾患です 。公認心理師・臨床心理士を目指す皆さんには、診断基準を正確に理解するとともに、患者様に寄り添い、安心できる環境を提供することが求められます。