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【衝動的な怒りや後悔に悩む方へ】感情の暴走を防ぐ「偏桃体ハイジャック」の理解と対処法

 「またカッとなっちゃった…」 「あの時、あんなこと言わなければ…」

あなたはこれまで、抑えきれない感情に突き動かされ、後で後悔するような行動を取ってしまった経験はありませんか? 仕事での不満を家族にぶつけてしまったり、ゲームに負けてコントローラーを叩き壊してしまったり、恋人の一言に激昂してしまったり…。

このような、まるでいつもの自分ではないような感情的な行動の裏には、「偏桃体ハイジャック」と呼ばれる脳の働きが関係しているかもしれません。

偏桃体とは?~感情の嵐を巻き起こす 古い脳の領域~

私たちの脳は、大きく分けて「古い脳」と「新しい脳」の二つの層で構成されています。古い脳は、私たち人間を含む哺乳類や爬虫類が共通して持つ脳の構造で、生命維持に必要な呼吸や体温調節といった本能的な機能と、感情を司っています。一方、新しい脳は、思考、言語、記憶といった、人間らしい理性的な働きを担っています。

この古い脳に位置する偏桃体は、危険を素早く察知し、対応するための重要な役割を担っています。私たちが太古の時代、脆弱な存在として自然の中で生き抜くために、偏桃体の迅速な反応は不可欠でした。わずかな物音や影に危険を察知し、生き延びるための「闘争・逃避反応」を瞬時に引き起こしていたのです。

現代社会においては、かつてのような生死をかけた脅威に直面することは稀になりました。しかし、偏桃体の基本的な機能は太古の昔から変わっていません。そのため、現代のストレスに対しても過剰に反応し、私たちの行動を感情的に「ハイジャック」してしまうことがあるのです。

感情の暴走メカニズム~偏桃体が「闘争・逃避」のスイッチを入れる瞬間~

私たちが何かを知覚したとき、その情報はまず脳の視床という中継地点に送られます。通常、視床はその情報を理性的な判断を司る新皮質(新しい脳)に伝え、そこから適切な感情反応が生成されるために偏桃体(古い脳)へと送られます。

しかし、脅威を感じた場合、視床は偏桃体と新皮質の両方に同時に情報を送ります。偏桃体が危険だと判断すると、新皮質がその情報を分析し、理性的な判断を下すよりも早く、本能的な「闘争・逃避反応」が開始されるのです。

この反応が始まると、体は戦うか逃げるための準備を始めます。ストレスホルモンであるアドレナリンやコルチゾールが分泌され、心拍数や血圧が上昇、瞳孔が開き、消化器官の働きが抑制され、筋肉が緊張します。

現代社会で私たちが直面するストレスの多くは、生命を脅かすような物理的な危険ではありません。しかし、私たちの体は、依然として物理的な脅威に対する「闘争・逃避」反応の準備をしてしまうのです。

ストレスが偏桃体を暴走させる?~慢性的なストレスとの悪循環~

偏桃体が引き起こす心身の反応は、まさに私たちがストレスを感じた時の反応とよく似ています。そして、慢性的なストレスは、偏桃体が過剰に活性化しやすい脳の状態を作り上げてしまう可能性があります。

不安症、パニック障害、恐怖症なども、偏桃体の過剰な反応が関与していると考えられています。さらに、慢性的なストレスは、脳内の過活動な恐怖や不安の回路を強化し、恐怖を抑制する役割を持つ海馬や前頭前野といった領域の機能を低下させる可能性も指摘されています。

つまり、ストレスが続く状態は、偏桃体の反応ばかりが脳内で優位になり、理性的な対処反応が働きにくくなるという悪循環を生み出すのです。だからこそ、日頃からのストレスマネジメントが、偏桃体の過剰反応を防ぐために非常に重要になります。

感情のコントロールを取り戻す!偏桃体を落ち着かせるためのヒント

偏桃体の過剰な働きを抑え、感情に振り回されないためには、感情的な知性(感情知性)を高めることが重要です。感情知性とは、自分の感情を理解し、管理する能力のこと。感情知性の高い人は、脳の感情領域と思考領域の繋がりが強く、自分の感情や思考に意識を向け、情動をコントロールする力に長けています。

感情知性を高める効果的な方法の一つがマインドフルネスです。マインドフルネスは、今この瞬間に意識を向け、周囲の状況や自分の内面に起こることに過剰に反応したり、圧倒されたりしない心の状態を育みます。

マインドフルネスは、主に以下の3つの側面から感情知性の向上に役立つとされています。

  • 自分の感情を理解する能力の向上
  • 他者の感情を認識する方法を学ぶ
  • 感情抑制能力の向上

日々のマインドフルネスの実践は、これらの脳の領域の発達を促すとされています。

また、日頃からストレッサー(ストレスの原因)を認識し、それが慢性的なストレスに繋がらないように注意することも大切です。ストレスの根本原因を把握することで、効果的なストレスマネジメントが可能になります。

さらに、偏桃体のハイジャックを弱めるためには、生活習慣の見直しも重要です。ストレスを感じた時にすぐにできる呼吸法や、長期的なストレス軽減に繋がる健康的な習慣(運動、バランスの取れた食事、質の高い睡眠など)を意識的に取り入れましょう。

これらの習慣を日常生活に取り入れ、偏桃体に支配されない、より穏やかな心の状態を目指しましょう。

いざという時のために!偏桃体に支配された時の応急処置

日頃からストレスマネジメントを心がけていても、感情の波に飲まれてしまうことはあります。そんな時、偏桃体の支配からできるだけ早く抜け出すための対処法をいくつかご紹介します。

  1. 感情に「名前を付ける」: 偏桃体の活性化を引き起こした原因(トリガー)を特定しましょう。自分の口調の変化、胸や胃の圧迫感、筋肉の緊張、歯の食いしばりなど、体のサインに注意を向けます。そして、そのような反応が起こった瞬間に「私は今、偏桃体に支配されている」と心の中で言葉にしてみましょう。感情に名前を与え、言葉にすることで、理性と感情の繋がりを取り戻す第一歩となります。
  2. 「6秒ルール」を試す: 偏桃体の支配によって放出される脳内物質の効果は約6秒で薄れると言われています。この短い時間を利用して、意識を別のもの(身の回りにある物、心地よい感覚、楽しいことなど)に意図的に向けることで、感情的な反応がエスカレートするのを防ぎやすくなります。
  3. 意識的な深呼吸をする: ゆっくりとしたリズミカルな呼吸は、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせる効果があります。息を深く吸い込み、ゆっくりと時間をかけて吐き出す呼吸を繰り返すことで、高ぶった感情を鎮めることができます。
  4. 一時的に「タイムアウト」する: 感情が抑えられないほど高まっている場合は、可能であればその場から物理的に距離を置きましょう。視界からストレッサーを外し、冷静になれる場所へ移動することで、感情のコントロールを取り戻しやすくなります。

仙台泉メンタルサポートオフィスからのメッセージ

感情のコントロールは、誰にとっても重要な課題です。偏桃体の働きを理解し、適切な対処法を身につけることで、感情の波に乗りこなし、より穏やかな日々を送ることができるはずです。

もし、ご自身の感情のコントロールにお悩みの方や、より深くメンタルヘルスについて学びたいと感じた方は、仙台泉メンタルサポートオフィスまでお気軽にご相談ください。専門のカウンセラーが、あなたの心の声に寄り添い、サポートさせていただきます。