心理学史

ゲシュタルト心理学とは?主な理論・キーワード・重要人物をわかりやすく解説

ゲシュタルト心理学は、ヴントやティチナーが提唱した構成主義(要素主義)的な心理学に対する反論として、マックス・ヴェルトハイマーによって提唱された心理学の立場です。
ヴェルトハイマーは、人間の心的過程は単なる要素の寄せ集めではなく、「全体としての構造(ゲシュタルト)」が重要であると主張しました。

この学派は20世紀初頭にドイツで誕生しましたが、ナチス政権下での迫害を避け、多くの研究者がアメリカに活動の拠点を移しました。ゲシュタルト心理学の考え方は、後に実験社会心理学の発展認知心理学の誕生にも大きな影響を与えています。

ゲシュタルト心理学の主要人物

  • マックス・ヴェルトハイマー(M. Wertheimer)
     ゲシュタルト心理学の創始者。仮現運動やプレグナンツの法則の提唱者。
  • ヴォルフガング・ケーラー(W. Köhler)
     ヴェルトハイマーの協力者。洞察学習の研究で知られる。
  • クルト・コフカ(K. Koffka)
     ゲシュタルト心理学の理論を英語圏に紹介し普及させた功労者。発達心理学にも貢献。
  • クルト・レヴィン(K. Lewin)
     場の理論を提唱し、後のグループダイナミクス社会心理学に影響を与えた。ルビンの盃を図地反転の例として紹介した人物でもある。

ゲシュタルト心理学の主なキーワード

■ 仮現運動(ファイ現象)

仮現運動とは、実際には動いていない刺激が、あたかも動いているように知覚される現象のことです。
例としては、電光掲示板で文字が動いて見える現象や、パラパラ漫画などが挙げられます。

ヴェルトハイマーは、光点を短い間隔(約60ミリ秒)で交互に提示すると、光が左右に移動しているように知覚されることを発見し、これを「ファイ現象」と名付けました。

■ プレグナンツの法則(群化の法則)

人間は視覚情報を知覚する際、できるだけ簡潔で秩序ある形(=プレグナンツ)として知覚する傾向があります。
これをプレグナンツの法則または群化の法則と呼びます。

代表的な群化の原理には以下のようなものがあります:

  • 近接の法則:近くにある要素はひとまとまりに知覚される
  • 連続の法則:滑らかに連続した要素は一体として知覚される
  • 類同の法則:形や色などが似ている要素はまとまって知覚される
  • 閉合の法則:閉じた形や未完成な形は、補完されてまとまりとして知覚される

さらにケーラーは、これらの法則は心理現象だけでなく脳の生理的な働きにも関係していると考えました。この立場は心理物理同型説と呼ばれ、心理的構造と脳内の生理的構造が対応しているとする考え方です。

■ 図と地の関係(図地分化)

私たちが絵や風景を見るとき、注意を向けて認識している対象を「図」、その背景となる部分を「地」と呼びます。
このような知覚上の区別を「図地分化」と言います。

ルビンの盃(例:白い盃と黒い2人の横顔が見える図)は、「図」と「地」が容易に入れ替わる図地反転の代表例です。

■ 場の理論(Field Theory)

クルト・レヴィンは、個人の行動は、個人自身の内的状態と、その人を取り巻く環境(心理的場)の相互作用によって決定されると考えました。
この理論を**「場の理論」**(Field Theory)と呼びます。

また、レヴィンはこの視点をもとに、他者との関係性や集団内のダイナミクスにも注目し、グループダイナミクス(集団力学)という概念を提唱しました。

■ 洞察学習(Insight Learning)

ケーラーは、チンパンジーの観察を通して、問題解決における「ひらめき(洞察)」の重要性を示しました。

高い所にあるバナナを取るために、チンパンジーが棒や踏み台を組み合わせて使う様子を観察し、試行錯誤ではなく、目的と手段をつなぐ構造を理解する学習が起こっていると考えました。
このような学習を洞察学習と呼びます。

まとめ

ゲシュタルト心理学は、「全体は部分の総和以上のものである」という考え方を核とし、人間の知覚や学習を新たな視点から捉えた心理学の一大潮流です。
その影響は知覚心理学だけでなく、学習理論、社会心理学、認知心理学といった多くの分野に波及しています。