古典的条件付け(Classical Conditioning)は、ロシアの生理学者イワン・パブロフ(Ivan Pavlov)によって提唱された学習理論で、「レスポンデント条件付け」とも呼ばれます。パブロフは犬の唾液分泌を用いた実験から、刺激と反応の関連づけによる学習メカニズムを明らかにしました。
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パブロフの犬の実験
実験の基本構造は次の通りです:
- 無条件刺激(US:Unconditioned Stimulus):食べ物(自然に唾液を誘発する刺激)
- 無条件反応(UR:Unconditioned Response):唾液分泌(自然な生理的反応)
- 中性刺激(NS:Neutral Stimulus):ベルの音(最初は唾液反応を引き起こさない)
中性刺激(ベルの音)を提示した直後に無条件刺激(食べ物)を繰り返し与えることで、ベルの音だけで唾液が分泌されるようになります。このとき:
- 条件刺激(CS:Conditioned Stimulus):ベルの音(学習によって反応を引き起こすようになった刺激)
- 条件反応(CR:Conditioned Response):唾液分泌(学習された反応)
このような刺激と反応の結びつきの形成を古典的条件付けと呼びます。
【図解】古典的条件付けの構造
刺激の種類 | 内容 | 例 |
---|---|---|
無条件刺激(US) | 生得的な刺激 | 食べ物 |
無条件反応(UR) | 生得的な反応 | 唾液分泌 |
中性刺激(NS) | 無反応な刺激 | ベルの音(最初は反応なし) |
条件刺激(CS) | 学習された刺激 | ベルの音(学習後) |
条件反応(CR) | 学習された反応 | 唾液分泌(ベルの音で) |
条件づけの4パターン(対提示のタイミング)
種類 | 説明 | 例 | 条件づけの成立のしやすさ |
---|---|---|---|
同時条件づけ | CSとUSを同時に提示 | ベルを鳴らすと同時にエサを与える | △ |
遅延条件づけ | CSの後、少し遅れてUSを提示(最も効果的) | ベルを鳴らして5秒後にエサを与える | ◎ |
痕跡条件づけ | CS終了後に一定時間空けてUSを提示 | ベルを鳴らし終わってから餌を与える | ◯ |
逆行条件づけ | USの後にCSを提示 | 餌を与えた後にベルを鳴らす | ×(成立しにくい) |
古典的条件付けの関連現象
● 消去(Extinction)と自発的回復(Spontaneous Recovery)
- 消去:条件刺激(ベル)を提示しても無条件刺激(餌)を伴わなければ、次第に条件反応(唾液)は起こらなくなる。
- 自発的回復:消去後に時間を置いて再び条件刺激を呈示すると、条件反応が一時的に回復する現象。
● 般化(Generalization)と分化/弁別(Discrimination)
- 般化:条件刺激に類似した刺激でも条件反応が起こる(例:似た音のベルでも唾液が出る)。
- 分化(弁別):類似刺激を条件づけしないことで、反応を区別するようになる。
● 味覚嫌悪学習(ガルシア効果)
心理学者ガルシアが発見した、1回の経験でも成立する強力な条件づけ。食べた物と体調不良が結びつき、その食品を避けるようになる。
- 例:牡蠣を食べて食あたり → 以後、牡蠣が食べられなくなる
※従来の条件付けと違い、時間が空いていても成立しやすい、消去しづらいといった特徴があります。
● 高次条件づけ(Higher-order Conditioning)
既に条件付けされた刺激(CS)に別の中性刺激(NS)を組み合わせることで、新たな条件反応が形成される。
- 例:ベル(CS)→唾液 → 光+ベルを提示 → 光のみで唾液分泌
● 実験神経症
パブロフの研究中、弁別が困難な課題により、犬が混乱し、自傷行為や過剰な興奮を示すようになった状態。
これは不確実な刺激(報酬が出たり出なかったり)によって生じる過度のストレス反応とみなされ、人間の神経症のモデルとされています。
まとめ:古典的条件付けの理解は心理学の基礎
古典的条件付けは、心理学の学習理論の基本であり、行動療法や教育、さらには広告やマーケティングなど実生活にも応用されています。
公認心理師試験や臨床心理士試験でも頻出のテーマですので、用語の正確な理解と、具体例での整理がポイントです。