今回は、ハラスメントの定義から、主要な種類、企業の法的義務、そして心理職としての関わり方について解説します。
もくじ
1. ハラスメントとは? 法的定義と分類
ハラスメントは、他者への言動によって不快な感情や不利益を与え、人権を侵害する行為の総称です。特に職場においては、労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)などによって、企業の防止措置が義務付けられています。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
法的定義: 職場における、労働者の意に反する「性的な言動」により、就業環境が害されたり、労働条件に不利益を受けたりする行為。性別や性的指向を問わず、男性から女性、女性から男性、同性間の行為も含まれます。
種類:
- 対価型: 性的な言動への拒否や抵抗を理由に、解雇、降格、減給などの労働条件上の不利益を与える行為。
- 環境型: 性的な言動により、従業員の就業環境が不快となり、仕事の能力発揮に重大な悪影響が生じる行為。
パワーハラスメント(パワハラ)
法的定義: 職場において、以下の3つの要素をすべて満たす行為を指します(労働施策総合推進法)。
- 優越的な関係を背景としていること: 職務上の地位や人間関係、専門知識の優位性を利用して、相手の抵抗や拒否が困難な状態にさせること。
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること: 業務目的から逸脱し、社会通念上許容される範囲を超えた言動であること。
- 就業環境が害されること: 身体的・精神的な苦痛を与えることで、就業意欲や能力発揮に悪影響を与えること。
6つの類型:
- 身体的な攻撃: 暴力や殴打など。
- 精神的な攻撃: 人格否定、侮辱、脅迫、名誉毀損など。
- 人間関係からの切り離し: 隔離、無視、仲間外れなど。
- 過大な要求: 明らかに達成不可能な業務を強要したり、新入社員に過剰なノルマを課すなど。
- 過小な要求: 嫌がらせとして、業務を与えなかったり、誰でもできる雑務ばかりをさせたりすること。
- 個の侵害: プライバシーに過度に踏み込んだり、私生活を監視したりすること。
モラルハラスメント(モラハラ)
パワハラと似ていますが、明確な力関係がない場合でも発生する精神的な虐待や心理的な攻撃を指します。無視、悪口、陰口、価値観の押し付けなどが含まれ、法的な定義や類型は存在しませんが、パワハラに該当する場合もあります。
その他のハラスメント
- マタニティハラスメント(マタハラ): 妊娠・出産や育児休業の取得に関して、不当な言動を行うこと。
- パタニティハラスメント(パタハラ): 男性が育児休業を取得することに対し、嫌がらせを行うこと。
- アカデミックハラスメント(アカハラ): 大学など教育・研究機関において、指導教授などが立場を利用して不当な扱いをすること。
- カスタマーハラスメント(カスハラ): 顧客からの度を超えた不当な要求やクレーム、暴言など。
2. 企業が取るべきハラスメント対策と心理士の役割
ハラスメント防止は、労働安全衛生法や労働施策総合推進法に基づき、企業の義務です。
- 社内方針の明確化:
- ハラスメントの内容、禁止の方針を就業規則に明確に規定し、従業員に周知・啓発します。
- 違反者への厳正な対処方針を明示します。
- 相談体制の整備:
- 従業員が安心して相談できる窓口を設置し、相談担当者はプライバシー保護を徹底します。
- 公認心理師・臨床心理士の役割: 専門的な知識を持つ心理職は、相談窓口の担当者として、相談者の心理的ケアや事実確認のサポート、適切な機関への連携など、重要な役割を担います。
- ハラスメント研修の実施:
- ハラスメントの正しい知識や、無意識のバイアス(偏見)に気づくための研修を定期的に実施します。
- 公認心理師・臨床心理士の役割: 心理職は、研修の企画・実施を通じて、従業員の心理的安全性やコミュニケーションスキルの向上に貢献できます。
3. ハラスメント発覚時の対応
ハラスメントの相談があった場合、迅速かつ公正な対応が求められます。
- 事実確認:
- 被害者、行為者、目撃者などから丁寧に事情を聴き取り、事実関係を正確に把握します。
- 公認心理師・臨床心理士の役割: 相談者への心理的配慮をしながら、丁寧な聴き取りを行い、正確な情報を引き出すサポートをします。
- 適切な措置の実施:
- ハラスメントが確認された場合、被害者の意向を尊重した上で、行為者には就業規則に基づいた処分を行います。被害者への心理的ケアや配置転換なども検討します。
- 再発防止策:
- ハラスメント防止に関する方針の再周知、職場環境の改善、定期的な研修の実施など、再発を防止するための取り組みを継続して行います。
まとめ
ハラスメントは、個人の問題にとどまらず、組織全体の生産性やメンタルヘルスに悪影響を及ぼします。公認心理師・臨床心理士は、ハラスメントの予防から、相談対応、再発防止策まで、多岐にわたる役割を担うことが期待されています。試験対策として、各種ハラスメントの定義や法的根拠、心理職の役割を正確に理解しておきましょう。