精神症状

公認心理師/臨床心理士試験対策:限局性学習症(SLD)の定義・診断・支援

限局性学習症(SLD:Specific Learning Disorder)は、神経発達症群に含まれる障害であり、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習技能に著しい困難を抱える状態です。全般的な知的能力に遅れがない点が、知的発達症(知的能力障害)との重要な鑑別点となります。

1. SLDの定義と基本分類(試験対策必須事項)

定義と旧称

SLDは、知的能力全般に遅れがないにも関わらず、特定の学習的技能(読み・書き・計算・数学的推論など)が、年齢相応に期待される程度よりも極端に劣っている状態を指します。

  • 旧称: 学習障害(LD:Learning Disorder)と同意語です。
  • 鑑別: 知的発達症(知的能力障害)や、視力・聴力、上肢の障害、学習機会の不足といった身体的・環境的な問題が直接的な原因ではないことが診断の必須条件です。

3つの主要なタイプ

SLDは、困難を抱える機能により主に以下の3つに分類されます。

  1. 読字不全(読み障害)
    • 別名:発達性ディスレクシア(Developmental Dyslexia)
    • 特徴:文章を正確に読んで理解するのが難しい、仮名を正確に読むことや流暢に読むことに支障をきたす(デコーディング機能の不全)。通常、書字にも困難を伴うため「発達性読み書き障害」とも言われます。
  2. 書字表出障害(書き障害)
    • 別名:ディスグラフィア(Dysgraphia)
    • 特徴:文字を正確に書くことや、綴字(ていじ)の誤り、筋道を立てて文章を作成・構成することが難しい。
  3. 算数障害
    • 別名:ディスカリキュリア(Dyscalculia)
    • 特徴:暗算や筆算、数の概念の理解、数学的推論(文章題を解くこと)が難しい。数処理、数概念、計算、数的推論の4領域における障害と考えられます。

2. 診断基準と併存症(DSM-5-TR準拠)

診断基準(DSM-5-TR)のポイント

SLDの診断には、アメリカ精神医学会によるDSM-5-TRの診断基準が用いられます。

診断基準の要点詳細
症状の継続期間次の症状のうち少なくともひとつが存在し、6カ月以上継続している。
学業的技能の評価学業的な技能が年齢相応の期待レベルではなく、学業や職務遂行に差しさわりがある
症状の具体例読むことの不的確または遅い、読解困難、綴りの間違い、計算習得の困難、数学的推論ができない、文法や句読点の間違いなど。
除外規定学習困難が、知的発達症や視聴覚などの他の精神疾患身体の障害では説明できない。

併存症(Comorbidity)

SLDは、他の神経発達症と併存することがあります。個々の特性を理解するため、以下の併存の有無を評価することが大切です。

  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠如多動症(ADHD)

3. 評価(アセスメント)と支援の要点

必須の評価ツール

SLDの診断・評価には、特定の学習技能が知的能力や年齢に比して妥当かを判断するため、知的能力の評価が必須です。

評価項目主な検査・ツール
知的能力評価ウェクスラー式知能検査(WISC-IV/Vなど)田中ビネー知能検査Vなど
学習評価(標準化)STRAW-R(改訂版 標準読み書きスクリーニング検査)、日本版KABC-IICARD(包括的領域別読み能力検査)など

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支援の軸と合理的配慮

支援は、検査結果に基づいた個々の特性に合わせた学習技能を向上させるための指導が軸となります。また、学校生活においては合理的配慮が重要視されます。

支援の目的合理的配慮の具体例(試験頻出)
負担軽減と意欲維持板書の書き写し免除(プリント配布/撮影許可)、漢字にルビを振る、当該学年相応の漢字書字を免除する。
情報アクセス問題文を読みあげる、パソコンやタブレット端末などICTを活用する
評価方法試験時間を延長するなど。

これらの教育的配慮は、学習の困難さから生じる本人の負担を軽減し、学習意欲の維持につなげるために非常に重要です。