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ウェクスラー検査の用語解説:WAIS-ⅣとWISC-Vの概要

公認心理師や臨床心理士の資格試験において、ウェクスラー検査は重要な出題範囲です。このブログでは、ウェクスラー検査の歴史から、最新の成人用・児童用の検査であるWAIS-ⅣWISC-Vの概要までを解説します。

1. ウェクスラー検査の歴史

ウェクスラー検査は、デイビッド・ウェクスラー(David Wechsler)によって開発されました。彼は、当時の主流であったビネー式知能検査が抱えていたいくつかの課題を解決しようとしました。

ビネー式検査は主に言語能力を重視しており、大人の知能を測るには不十分でした。また、知能指数(IQ)の算出方法が、年齢が上がるにつれて妥当性が低くなるという問題もありました。

ウェクスラーはこれらの問題を克服するため、1939年にウェクスラー・ベルビュー知能検査を発表しました。この検査は、言語性能力と動作性能力を分けて測定し、偏差IQという、年齢ごとの集団内での相対的な位置を示す新たなIQ算出方法を導入しました。この「言語性IQ」と「動作性IQ」の2つに分けるという考え方は、その後のウェクスラー検査の基礎となりました。

2. 最新のウェクスラー検査:WAIS-ⅣとWISC-V

ウェクスラー検査は、その後も改訂を重ね、現在では成人用と児童用でそれぞれ最新版が広く用いられています。

WAIS-Ⅳ(Wechsler Adult Intelligence Scale-Fourth Edition)

WAIS-Ⅳは、16歳0ヶ月から90歳11ヶ月までの成人を対象とした知能検査です。従来のWAIS-Ⅲからさらに発展し、知能をより多角的に捉えることを目的としています。

WAIS-Ⅳの主な特徴と指標

WAIS-Ⅳは、従来の「言語性IQ」「動作性IQ」の分類を見直し、4つの主要な指標を算出します。

WAIS₋Ⅳ
指標下位検査(補助検査)測定される主な機能
言語理解 VCI類似、単語、知識、(理解)・言語的推論力
・語彙
・抽象的概念形成
・言語による知識獲得
知覚推理 PRI積木模様、行列推理、パズル、(バランス)、(絵の完成)・視覚的分析
・空間把握
・非言語的問題解決能力
作動記憶 WMI数唱、算数 、(語音整列)・聴覚的保持
・情報操作
・注意の持続
・ワーキングメモリ
処理速度 PSI符号、記号探し、 (絵の抹消)・素早い視覚的認知と運動反応
・注意の切り替え能力
  1. 全検査IQ(FSIQ): 全体的な知能を表す総合的な指標です。
  2. 言語理解(VCI): 獲得した言語知識や概念形成能力、言語による推論能力を測定します。
    • 下位検査例: 「類似」「単語」「知識」
  3. 知覚推理(PRI): 視覚的な情報を整理・統合する能力や、非言語的な推論能力を測定します。
    • 下位検査例: 「積木模様」「パズル」「行列推理」
  4. ワーキングメモリ(WMI): 短期間、情報を心の中で保持・操作する能力を測定します。
    • 下位検査例: 「数唱」「算数」
  5. 処理速度(PSI): 視覚情報を素早く正確に処理する能力を測定します。
    • 下位検査例: 「記号探し」「符号」

これらの指標を見ることで、個人の知的能力のプロフィールを詳細に把握することができます。

WISC-V(Wechsler Intelligence Scale for Children-Fifth Edition)

WISC-Vは、5歳0ヶ月から16歳11ヶ月までの児童を対象とした知能検査です。WAIS-Ⅳと同様に、知能の多面的な側面を評価します。

WISC-Vの主な特徴と指標

WISC-Vも、4つの主要な指標に加えて、WAIS-Ⅳにはない指標を持っています。

WISC-V
指標下位検査(二次下位検査)補助指標得点下位検査
言語理解(VCI)類似、単語、(知識)、(理解)量的推論(QRI)バランス、(算数)
視空間(VSI)積木模様、パズル聴覚ワーキングメモリー(AWMI)数唱、(語音整列)
流動性推理(FRI)行列推理、バランス、(絵の概念)、(算数)非言語性能力(NVI)積木模様、パズル、行列推理、バランス、絵のスパン、符号
ワーキングメモリ(WMI)数唱、絵のスパン、(語音整列)一般的知的能力(GAI)類似、単語、積木模様、行列推理、バランス
処理速度(PSI)符号、記号探し、(絵の抹消)認知熟練度(CPI)数唱、絵のスパン、符号、記号探し
  1. 全検査IQ(FSIQ): 全体的な知能を表す総合的な指標です。
  2. 言語理解指標(VCI): 言葉の概念形成能力や言語による推論能力を測定します。
    • 下位検査例: 「類似」「単語」
  3. 視空間指標(VSI): 視覚的な詳細を認識し、構成する能力を測定します。
    • 下位検査例: 「積木模様」「パズル」
  4. 流動性推理指標(FRI): 新しい問題解決や抽象的な思考能力を測定します。
    • 下位検査例: 「行列推理」「バランス」
  5. ワーキングメモリ指標(WMI): 情報を心の中で保持・操作する能力を測定します。
    • 下位検査例: 「数唱」「絵のスパン」
  6. 処理速度指標(PSI): 視覚情報を素早く正確に処理する能力を測定します。
    • 下位検査例: 「記号探し」「符号」

WISC-Vは、上記の主要指標に加えて、補助指標を算出することも可能で、児童の知能発達の特性をより細かく把握できるように設計されています。神経発達症の診断や支援計画の立案にも活用されます。

まとめ

ウェクスラー検査は、単にIQを算出するだけでなく、個人の認知的な強みや弱みを詳細に捉えるための重要なツールです。特にWAIS-ⅣとWISC-Vは、4つの主要な指標(WISC-Vは5つの指標)から、個々のプロフィールを多角的に理解することを可能にします。資格試験では、各検査の対象年齢や主な指標、下位検査について問われることが多いので、しっかりと覚えておきましょう。