基礎心理学

注意の種類とその理論

注意は認知心理学・臨床心理学の基礎概念の一つであり、公認心理師・臨床心理士試験でも頻出です。この記事では、試験対策としての理解はもちろん、日常やカウンセリング場面で役立つ視点も交えて、注意の種類と関連理論を整理します。

1. 注意の種類:4つの分類

注意は状況や目的に応じて柔軟に使い分けられます。以下の分類は試験頻出の基礎知識です。

注意の種類定義具体例
空間的注意(Spatial Attention)空間の中から特定の場所に意識を向ける人混みの中で知人を探す
選択的注意(Selective Attention)多数の情報の中から必要なものだけを選ぶ騒がしいカフェで友人の声だけ聞き取る
集中的注意(Sustained / Focused Attention)特定の対象に長時間集中を維持する試験問題に集中して解く
分割的注意(Divided Attention)複数の対象に同時に注意を向ける運転しながら会話する

2. 選択的注意の実験:両耳分離聴課題(Dichotic Listening Task)

心理学者チェリー(Cherry, E.C.)が行った有名な実験です。

【方法】
左右の耳に異なるメッセージを同時に流し、一方の耳からのメッセージだけを追唱(繰り返す)する。

【結果と示唆】

  • 選択した耳の情報は追唱できる
  • 無視した耳の情報は内容の理解は困難
  • ただし、無視耳の物理的変化(声の性別、ブザー音など)は検出可能

注意:意味処理以前の段階では、全情報がある程度処理される可能性が示唆された。

3. 選択的注意の理論モデル

① フィルター仮説(Broadbent, 1958)

別名「早期選択説(Early Selection Theory)」

【概要】

  • 感覚情報は一旦フィルター(選択的注意)を通る
  • フィルターを通過した情報だけが短期記憶・長期記憶に送られる
  • 無視された情報は、ほぼ記憶に残らない

【重要】
「情報処理のボトルネック」を強調する古典的モデル

② 後期選択説(Deutsch & Deutsch, 1963)

【概要】

  • 全情報が意味処理まで進む
  • その後、必要・不要が判断され、記憶に残るのは必要な情報だけ

【例】

  • パーティー会場で、関心を向けていない会話の中から、自分の名前には自然と反応する

③ 減衰説(Treisman, 1964)

【概要】

  • フィルターは情報を完全遮断せず、強度を「減衰」させる
  • 弱められた情報も、重要性が高いと意識にのぼる可能性がある

【ポイント】

  • 後期選択説と早期選択説の中間的立場
  • 柔軟な情報処理モデル

4. カクテルパーティ効果(Cocktail Party Effect)

騒がしい場所でも、特定の会話に注意を集中し内容を理解できる現象。
選択的注意の実例として頻繁に出題されます。

【関連理論】

  • フィルター仮説:必要情報のみ通過
  • 後期選択説・減衰説:重要情報は無視状態からでも検出

【臨床応用】

  • ASDや注意障害を持つ人は、この効果が弱く、情報選択が困難になる場合がある
  • カウンセリング場面で「話が頭に入らない」背景理解につながる

5. まとめ:注意の理解は学習・臨床双方に必須

心理系大学院や国家試験では、
✔︎ 注意の分類(空間的・選択的・集中的・分割的)
✔︎ 選択的注意の実験(両耳分離聴課題)
✔︎ 理論モデル(早期選択説・後期選択説・減衰説)
✔︎ カクテルパーティ効果

これらを正確に理解することが求められます。

さらに、注意の仕組みを知ることで、

  • 効果的な学習法(集中の持続・情報選択)
  • クライエント理解(注意障害、情報過多への困難)

といった実践的な応用が可能になります。